春日はボディスラムを成功させるも、二段蹴りを連続して浴びてしまう。
しかし、カバーをクリアしてモダンタイムスで反撃する。
市井の次の攻撃はミサイルキック。
喉元に食い込む右足。
ミサイルも連発だったが、春日はブリッジで返す。
そして...
この後、春日の”勝負勘”が姿を現してくることになる。
二段蹴りをかわし、
スクールボーイ。
彗星キックも不発に終わらせ、逆に回転エビを仕掛けていく。
コーナーからボディプレスを放ち、
バックを取って持ち上げる。
市井に踏ん張られるや逆さ押さえ込み、
そしてクラッチ。
1、
2、
・・・!!!
間違いなく、春日史上最も3カウントに近づいた瞬間だった。
レフェリーが最後を叩いても全く不思議ではないタイミング。
勝利への執念と集中力は途切れなかった。
回転エビで再度フォールを取りに行く。
今度は市井がコーナーに走り、三角飛び式のボディアタック。
これも体を反転させてエビ固めを決める。
惜しい!!
春日の怒涛の攻勢に、場内には歓声が渦巻いている。
勝利の予感、或いは確信。
会場でプロレスの試合を見た人ならば、そんな”空気”を感じる試合を
見た事があると思う。ワン・ツー・スリーが、頭の中で現実よりも数秒
だけ先回りして展開されているような感覚。
そして現実が追いついた瞬間のカタルシスは、プロレスでしか体験
できないものだ。
場内を、まさにそんな雰囲気が支配していた。
しかし・・・
市井のハイが春日を捉えた瞬間、その”気”は潰えた。
カウント3。
「負けられない試合」に、春日は敗れた。
膝をついた姿勢の春日の前に、市井が立つ。
市井に対し、何やら語りかける春日。
「もう1回戦ってください」
「もう一度舞組で戦いましょう」
人差し指に込めた春日の願いはどちらだったのだろう。
市井は、反応を見せることなく春日の横を通り過ぎた。
そして土下座。
これは一体、何を意味するのか。
春日は諦める事無く、膝を立てて再度市井を見上げた。
しかし、そのまま踵を返し、リングを後にする市井。
春日は這いつくばり、両足でバタバタとマットを蹴った。
大好きな市井舞と舞組が、遠くに行ってしまう・・・
宝物を失くした子供のように、春日は何度もマットを蹴った。
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