夢の森。
逆井プロレス

−夢の森−



山田圭介主催興行(1998年10月25日、逆井プロレス道場)


Vol.3



   「MajiでKoiする5秒前」


 広末涼子だった。
 モームスは、おとりであった!(^_^;
 CDの歌詞カードを見ながら歌う西堀。





 ほんわかと盛り上がる場内。
 ところが1コーラス歌ったところで、事態は急変してしまう。
 唐突にカラオケが切られてしまったのだ!
 聴衆から巻き起こる、すさまじいブーイングの嵐。




 セミファイナル、月岡 vs 三上(DDT)。
 いいカードだ。二人ならきっとワクワクするような闘いを見せてくれるはず。

 思った通りだった。特に月岡のハチャメチャぶりがいい。
 三上を屋外に連れ出した。一斉に後を追う観客。
 月岡はチャンコ鍋の置かれていたあたりにまで三上を連行した。そしてボディースラム!
 二人が道場に戻ると、観客もぞろぞろと踵を返した。


 「はい、福袋いかがでしょー!?」


 すかさず入り口脇で再度売り込みに励む押江さん(^_^;

 月岡の”破天荒”はその後も勢いを失わない。
 あんな狭いところで場外戦、そして鉄柵に飛び乗った。

     あわわわわ

 あたふたと観客が逃げまどう中、月岡が舞った。ムーンサルト!
 ケプラーダ!どっちだ!どっちでもいい、すごいよ月岡!!!
 どすんとゴザに倒れ込む両者。その下敷となり、哀れぺしゃんこになった、
 和田ぴょん福袋(^_^;

 三上も躍動感溢れるファイトで対抗し、熱狂のままゴング。
 20分は短すぎたなあ・・・実にいい試合だった!








 メインイベントは山田・山下 vs 矢口・紫炎龍(SPWF)。
 ところが、矢口はマーダラーを引き連れて入場してきた。




  「俺様が出るまでもないだろう」


 自分の代わりにマーダラーに試合させるという事のようだ。
 そこに名乗りを上げたのが高智。かくして、急遽6人タッグに変更となった。
 試合は大荒れ、山下が大流血。
 血しぶきがマットに降り注ぐ。




 そうした中ふと気づくと、他の選手がみんなリング下を取り囲んでいた。
 真剣な眼差しだ。




 場外乱闘の隙をつきノーザンライトでマーダラーを沈めたのは、
 志願出場した高智だった。





 試合後。観客に語り掛ける矢口。初めて気づいた、「オリプロ」という文字。




 静かな口調で語ったのは、”愛”だった。

 オリエンタルプロレス、IWA JAPAN、DDT・・・
 様々な団体のレスラー達が、ここで汗を流していた。

 取り壊しが決まった道場。
 自分にとっての原点が、生まれた場所が消えてしまう。
 ならば、その前に。
 せめて、最後に・・・

 手作り興行の裏には矢口や山田達の、熱く切ない思いがあったのだ。




 客出し。


  「やっぱええ体しとるなあ」


 地元の人らしいおじさんが、笑顔で山田に声を掛けた。
 それを聞いた山田は、無言のまま右腕を曲げて力こぶを作って見せた。


  「ああ、面白かった」


 別のおじさんが、そう呟きながら横を通り過ぎた。
 これだ!と思った。
 派手な舞台装置もない。立派な会場でもない。
 何の予備知識もない観客だっていっぱいいる。
 それなのに沸き、驚き、笑い、満足げに家路に向かう。
 これこそがプロレスの原点。そう思った。

 インディー系のファンが雰囲気を作り、無垢な訪問者が
 ごくごく自然に順応し、融け込んでいった。
 奇跡的な興行だったなあ。
 そう思った。





 外に出た。肉じゃが屋さんから転職したビール屋さんに、千円札を差し出した。
 割り引きされて、5本千円。

   「持って帰るの大変だから」

 そう言って、さらにもう一缶余計に渡してくれた。
 気前のいいビール屋さんに礼を言い、別れを告げた。
 三人で、漆黒となった森を歩いた。




 夢の森。
 かつて逆井で明日を夢見たレスラー達が、確かにいた。




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